過去の活動成果
平成27年度から平成29年度にかけて、経産省の事業:省エネルギーに関する国際標準の獲得・普及促進事業(省エネルギー等国際標準開発(国際標準分野))の一環として『【省11】各種ITツールの活用を保証するデータ基盤に関する国際標準化』をテーマとするプロジェクト活動を実施してきました。活動の成果として、平成30年11月、日本発の「同一性検証によるデジタルデータの信頼性保証」に関する国際規格(ISO 10303-62:同一性検証規格)が発行されました。
このプロジェクト活動は、従来にない産業界(一般社団法人 日本自動車工業会:JAMA、一般社団法人 電子情報技術産業協会:JEITA、一般社団法人 日本航空宇宙工業会:SJAC)とISO/TC 184/SC 4国内対策委員会との密な連携のもと進められたことが特筆すべき点として挙げられ実施基盤となったのが、平成26年に3団体(JAMA、JEITA、SJAC)が発起人となって設立されたISO/TC 184/SC 4運営協議会(後にISO/TC 184/SC 4推進協議会と名称変更)であり、目的は、ISO/TC 184/SC 4国内対策委員会の運営を産業界が強力にバックアップすることと共に産業界からのISO国際標準に対するニーズや要件をISO/TC 184/SC 4国内対策委員会へタイムリーにトスし、最終的に必要が認められればISO規格への反映も視野に入れた活動を実施することでした。
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平成30年度からの活動についてもISO/TC 184/SC 4推進協議会(後にものづくり標準データ推進協議会と名称変更)が積極的にバックアップする体制を前提に、産業界との良好な連携のもと本プロジェクトの活動を実施することができました。
当時のモチベーション
当時からIoTやSmart Manufacturing、Connected、Industriesなどデジタルデータを活用したものづくりが注目され、今後、ものづくり領域でデジタルデータの活用が最上流のOEM(メーカ)から下流領域を担う大手サプライヤーや中小製造業等への深さ(縦)方向と共に、国内外の異なる企業間、企業グループ間の連携などの横方向への拡がりが具現化するのは、世界のものづくりの趨勢から確実でした。
このようにデジタルデータの利活用が拡大する状況の中、ITツールの依存性のない標準化されたデジタルデータの重要性は益々大きくなり、国際標準規格開発と開発された標準規格を利活用するための基盤の整備(利活用技術の構築・習得・定着化)を密に連携して進めることも重要となっていました。すなわち、デジタルデータを活用しさえすれば効率良いものづくりが可能になるわけではなく、種々の観点での基準や仕組みの整備、関連規格の整備、デジタルデータ有効活用環境の整備など、周到な準備が必要でした。
プロジェクト体制
「デジタルものづくり推進のためのデータ基盤に関する国際標準化」の実現に向け本プロジェクトは以下に示すように4つの事業を効率よく実施するために、以下に示す委員会の体制を構築し進めました。
各委員会を束ねる為の“デジタルものづくり革新のための国際標準化委員会”(以下、国際標準化委員会と表記)を設けその配下に各委員会を配し、委員会間の情報流通や各活動の内容の共有、マネジメントを目的に報告会主体の委員会を開催しました。
委員会のメンバーとしては、配下の委員会の主要メンバーと共に産業界からの委員も加わり事業全体の進め方や成果の実務展開へ向け有意義な検討が出来る体制としました。
更に国際標準化委員会を実務レベルで補強するために、実務レベルのまとめや各委員会間の実務の整合を行うためのWGを設置し、その構成員を国際標準化委員会配下の4つの委員会の正副委員長としました。
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図3.1-3 【製造業でのデジタルトランスフォーメーションの展望】
今後の展望
凡そ2000年まで永きにわたり”ものづくり”の拠り所の中心は2次元を主体とする図面(2D)でした。1990年代半ば過ぎ頃より汎用の3次元CADが普及し始め2000年頃から先進的な自動車業界などで3Dデータによる”ものづくり”が本格化し、同時に系列のサプライヤーとのコラボレーションをCADのツールを共通化して推進することで、格段に製品開発期間の短縮や生産準備領域での手戻りの最小化、製品製造品質の向上が具現化し、産業界として多大なる恩恵を受けつつ現在に至っています。
更に最近では3Dデータだけでなく図面に付随するアナログ情報をデジタル化して、3D形状データと一体化した3D図面として流通させることで、より高いパフォーマンスを具現化する機運の高まりも見受けられるようになってきました。
正に2020年以降の”ものづくり”の拠り所は、3D図面に徐々にシフトしてゆく状況と理解すべきです。
デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションを、ものづくりの拠り所の図に重ねたのが図(図3.1-3)となります。
正に現在の状況はデジタライゼーションからデジタルトランスフォーメーションへ移行するタイミングという事ができます。ただ単に”ものづくり”に関するデジタルの利用・活用のレベルが3Dデータから様々なデジタル情報に変わるというだけでなく、デジタルでのビジネス連携を前提とし、従来のフローやプロセスに対し大きな変革が求められている状況であると言えます。
デジタルトランスフォーメーションというと、多くの中小の製造業では、自身や自社の課題として捉えにくい、或いは考えるきっかけすら見当たらない状況が見受けられます。しかしながら、多くの製造業で実践している”勘”と”経験”に基づく”ものづくり”の世界こそ、今後、従来にない新たな観点でデジタル技術を使う余地や価値が多く残されている領域という事ができます。
本プロジェクトの活動は、国際標準の開発と標準の利活用を連携し、相互作用させて進めて来ました。国際標準開発も重要な課題ですが、デジタルトランスフォーメーションで代表される、近い将来へ向けたデジタル情報の連携活用やビジネス全体としてのデジタル連携も増々重要度が高くなります。
この内容は、株式会社野村総合研究所からの委託で実施したものの成果です。
※この掲載コンテンツは、経済産業省委託 令和2年度 省エネルギーに関する国際標準の獲得・普及促進事業委託費【省03】デジタルものづくり推進のためのデータ基盤に関する国際標準化における成果報告書から抜粋
-禁無断転載-
ISO/TC 184/SC 4と国内委員会
ISO/TC 184/SC 4
ISO/TC 184/SC 4(以下SC 4)は、産業界の製品設計・開発プロセスの様々な段階で現れるデジタルデータのフォーマットやインターフェースの国際規格を定義する団体です。大きな目的はCAD/CAM/CAEデータの交換仕様の標準統一であり、ISO/TC 184/SC 4国内対策委員会には、STEPの領域で経験豊富な日本国内の専門家が企業や研究機関から集まっており、ものづくり標準データ推進協議会を通して収集された要望をISOに反映させるとともに、ISO/TC 184/SC 4を通じて得られた最新情報を協議会の会員に随時報告する役目を担っています。
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出典:"ISO/TC 184/SC 4: Overview" Kenny Swope, 2024
ISO/TC 184/SC 4が管轄する
3Dデータフォーマットの国際標準
ISO/TC 184/SC 4が管轄する3種類の国際標準フォーマットSTEP、JT、QIFについて解説します。国内対策委員会では、これまでこれらのフォーマットの最新情報の紹介や、改訂版の投票時の産業界への意見照会などを、推進協議会を通じて実施してきました。
STEP (ISO 10303)
STEPは、「3次元データの製品ライフサイクル全般に渡る国際標準を定める」ものであり、対応範囲は非常に後半にわたります。図 2に、STEP AP242 ed2で対応されているデータの全体を示します。
AP 242へと進化する際には、これに加えて、PDM属性・構造、kinematicsなどを表現するためのXMLフォーマットが新たに追加されました。これにより、独自のモデリング手法・言語ではなく、標準的なSysML/XMLを利用して新たなデータ表現を追加することが可能となっています。今後、新規の情報追加は、”Domain Model”と呼ばれるXML形式が中心となるでしょう。
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図 3 【 ISO JT ed 3の構成】
JT
軽量表示に特化したデータフォーマットであり、簡単な製品ツリー構造、3D形状(Brep、LOD)、PMI、各種属性等まで表現力が拡張されています。
2024年現在、JT Ver.10.5を基としたファイルフォーマットへの改訂プロジェクトが進んでおり、2025年中にはed 3として発行される予定となっています。
なお、ISO JT ed 3では、図 3に示すように、ファイルフォーマットの後方互換性を保証するため、規格が4 partに別れた構成となっています。Part 1が概要、Part 2が用語で、Part 3がed 2(JT Ver.9.5相当)のフォーマット、そしてPart 4がed 3(JT Ver.10.5相当)のフォーマットという構成となる予定です。
QIF
注記付きの三次元CADデータから始まり、CADデータに基づいた計測計画、利用される測定機、形体ごとの測定点数など計測ルール、測定パス、測定結果、統計処理の結果と、測定・検査に関わる様々な情報を表現することができます。
日本発の2つの国際規格:PDQとEQV
STEP AP 242(ISO 10303-242)には、日本が開発した2つの国際規格が含まれています。一方はPDQ(Product Data Quality:製品データ品質)、他方はEQV(EQuivalence Validation:同一性検証)です。
PDQは、ISO 10303-59および関連モジュールから構成されています。これは、製品データが規約を満たした正しいデータであるか、要求事項を満たしているか、というデータ品質を検証する技術です。
PDQの向上活動によって、3D形状においては、問題形状の早期検出やCADが作成する形状データ品質向上などを通してデータ流通の速度が飛躍的に向上しました。今後、PMI等の領域でも同様な効果が期待されます。
EQV(同一性検証)は、ISO 10303-62および関連モジュールで構成されており、2つのデータを同一とみなせるかどうかを検査する枠組みです。
EQV規格も、2018年度に発行された3D形状、アセンブリ構成から始まり、2024年現在開発中のポリゴン、PMI、表示属性まで、守備範囲を拡大し続けてきました。
PDQとEQVは、流通データの信頼性を保証する技術の両輪として、今後製造業の設計プロセスのDXを推進する上ではますます重要性が高まるでしょう。
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図 4 【 PDQ検査項目で検出される事例】
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図 5 【 EQV検査項目で 検出される事例】